接客営業とは、自分を売り込むこと。
成人の記念に買ったオメガの時計がきっかけで時計の虜に。
以来、時計を扱う仕事がしたいとこの業界に飛び込みました。
当店で取り扱うのはどれも高級なものばかり。
単なる物売りでは売れません。
この仕事を続けて、接客販売において大切なことは“人”であることを痛感しています。
営業には個人営業と法人営業があります。また、アパレルや飲食店では個人のお客様を相手にする仕事は接客と言われます。個人営業は一般の人が相手になるため、接客に近い営業手法となります。
ここでは、営業と聞くと気後れしてしまう人に、ぜひ知ってもらいたい営業マンの声をご紹介します。
ほとんどのお客様が常連様という現実。
「私が初めて買った高級時計は二十歳のとき。“一生に一度”の思いで購入しました。だから、お客様も一期一会になるだろうと思っていたんです」。
ところが、想像とは違っていたといいます。現実はお店の売り上げの大半が常連さんでした。
ターゲットは富裕層。限定品やレアな商品は、お客様の購買意欲をそそるもの。
「すでにお持ちのものをまたご案内するというのはNG。事前に調べて、お客様がお持ちのものを知った上で、次のご提案をしています」。
好みやニーズを聞き取ってふさわしいものを提案していく。“会話のなかで成り立つ商売”なんだと話してくれました。
接客しても売れない。そんな日々を乗り越えて。
仕事を始めた頃は、商品について猛烈に勉強ました。お客様が来られたら丁寧に接客し、得た知識をもとに商品を一生懸命説明しました。
「でも、売れませんでした。結局、お客様を見ていなかったんですよね。売ることに終始してしまうと、本当に大切なことを見失ってしまう。それに気づいたのはずっと後でした」。
こんなに丁寧な接客をしているのになんでだろう。
商品のこともよく知っているのに。
あの人よりも自分は丁寧な言葉使いなのになんで?
売れない時代は、売れている他の人が妬ましく、心の中で自分の正当性ばかり主張していたそうです。
「自分は話が上手い方だと思っていたし、昔から周りにもそういわれてきたから自信があったんですよね。でも、話し上手だから売り上手っていうのはあり得ないと思います。
営業って話し上手が向いていると思われがちじゃないですか。でも実は聞き上手じゃないといけない。相手のニーズや思いをしっかりヒアリングして、そのうえで提案したことが受け入れてもらえるかどうかなんですよね」。
出張先のジュネーブで感じた本物の接客とは。
販売だけでなく買い付けも行っていたため、海外出張もあったそう。
その際、ジュネーブで見た現場に心がリセットされるような気がしたといいます。
「ブランドの本店はステイタスとホスピタリティに溢れていました。世界観に圧倒されるという言葉が相応しいかもしれません。でも、何より感じたのは接客する人の聞き取る力でした。ヒアリングがあるからこそ、的確な提案ができるのだとわかったんです」
気づきを得てからの成長スピードは早かったそうです。
新人の頃に学んだ知識はすべて彼の武器。無駄にはなりません。あとはお客様との接し方を変えていけばいいだけ。
お客様の思いに寄り添いながら、適宜必要となる情報を添えていくことで、頼られる存在に成長していきました。
例えば、前に購入したものとのコーディネートをご紹介したり、ファッションとの相性をお客様と一緒に検証してみたり。参考書をコピーしたような説明ではなく、その内容をお客様に照らし合わせて提案することでお客様に響く接客となったのです。
相手の状態を具体的に想像しながら提案する。
よくある話で、専門家はわかっていることを前提で話をするので、知識のない人にとっては何を言っているかわからないということがあります。彼はそれに気づき、「つまり、あなたの場合は〜するのがいいと思いますがどうですか」という投げかけができるようになったのだとか。
すると相手はその提案を自分ごととして急に身近になり、購入に結びつくというのです。
そして、男性はいつしかお客様から頼られる存在になり、「あなたから買えてよかった」と言われるまでになりました。
男性はこれまでを振り返ってこう話してくれました。
「懸命になることは課題が顕在化していきます。それをどうやったら乗り越えられるかがわかるのは、考え続けるから。あのとき、売れないからと不貞腐れたままだったら、成長はなかったでしょうね」と。
そして、学んできた知識も、彼のもともとの強みである話上手なことも決して無駄にならないことを証明しました。本質を得たからこそ、特性や努力が日の目を見たのです。
彼はきっと今も店舗でトップセールスとして活躍していることでしょう。
まとめ
高級品だから丁寧な接客が大事。営業だからたくさんの知識が大切。という考えを否定するわけではありませんが、それだけでは弱いのも事実。
丁寧さや知識は付加価値としては大きいですが、人としての魅力の次にあるものだと気付かされました。けれど、彼が勉強してきた知識は大きな武器となっています。
考えあぐねながら通った道は決して無駄ではないのです。