辛い過去をバネにした志望動機。
中学時代に病気が原因で偏見・いじめを受けた過去がある。
その悲しさや悔しさを昇華させるためには、この仕事しかないと思った。
大声で叫ばなくても、弱者に寄り添いながら世の中を変えていけるかもしれないと。
この取材では、思わず涙が出てしまいました。
それは、取材対象者の辛い経験をハングリー精神でプラスに転じたことはもちろん、私の祖母が長く老健施設に入所していたことを思い出したから。こんな人にみてもらえたら、祖母はもっと幸せだったろうな、と思って取材中胸がいっぱいになったんです。
介護の仕事を通じて、ノーマライゼーションを目指す
ノーマライゼーションとは
1950年代に北欧諸国から始まった社会福祉をめぐる社会理念の一つで、障害者も、健常者と同様の生活が出来る様に支援するべき、という考え方である。また、そこから発展して、障害者と健常者とは、お互いが特別に区別されることなく、社会生活を共にするのが正常なことであり、本来の望ましい姿であるとする考え方としても使われることがある。
「障がいをもつ人も、そうでない人も分け隔てなく暮らせる環境ができればいいなというのが私の願いです。だからこそ、私はこの仕事、この職場(企業理念にノーマラーゼーションを掲げている)を選んだのだと思います」。
彼女は生まれつき小柄という特性がありました。ただそれだけのことのように思えますが、幼少期には偏見からいじめにあったといいます。
そのときに、思ったんだそう。
「相手に憎しみを抱くこともあったし、自分に歯痒い気持ちもあったけれど、そういうマイナスな気持ちに押しつぶされたくない!」と。
でも、彼女はそれを乗り越えたんです。
しかも、争うことでは解決しない。弱者といわれる人たちに寄り添っていくことで、世の中を変えていけるかもしれない。と。
その考えを聞いて、痛みを知っている人は強いし、優しいんだと痛感しました。
就労継続支援B型での仕事
利用者や施設の特性によって業務内容は異なります。
この方が働いていたのは就労継続支援B型の施設でした。
就労継続支援B型とは、障がいのある方が一般企業に就職することが困難な場合に、雇用契約を結ばずに生産活動などの就労訓練をおこなうことができる事業所及びサービスのこと。
障害者総合支援法という法律で定められた、国の就労支援サービスのひとつで、「就労の機会の提供」や「就労に必要な能力を育む」ことを目的としています。
彼女は知的障害をもつ人たちを対象としたB型の施設で、焼き菓子づくりの指導を行っていました。
コンディションを見ながら作業を支援
朝9時から夕方4時までが労働時間。働く人は利用者と呼ばれ何らかの障がいを持っている人たちです。
この事業所ではさまざまな焼き菓子を作っており、地元のカフェなどに販売を委託していました。
「難しいのは作業時間のコントロールです。利用者さんのコンディションによって作業にかかる時間は大きく変わります」。
また、手先の器用な人、そうでない人、得意・不得意があるため、個人差が出てしまいます。そこで、作業を細分化して、得意な人に得意なことをしてもらうようにしたのだとか。細かく仕事を分けることで、作業効率はぐんとアップしました。
「誰かの不得意は誰かの得意。そうやって作業を分配しておくことが大切なんです」。
彼女はそうしながら、障がい者がやりやすい環境を作り出していました。
他事業者と連携しながら取り組む
1事業所で製造から販売まで手がけることは、利用者さんにとっては幅広い仕事を経験できるというメリットですが、職員の数や利用者さんの状況、場所の問題等で販売まで出来ないというケースもあります。この事業所も後者のパターンでした。
そういった場合は販売を他の事業者に委託して製造だけ行うということになりますが、これはこれでメリットがあります。
他の事業者との連携で、事業所の取り組みを知ってもらい、認知度を高めることができるのです。
「実際、私たちの事業所が作ったお菓子を販売しているお店のオーナーからは、今までよく知らなかったけれど、協力できることはなんでも言ってね、と言っていただけます。私たちの取り組みを知ってもらいたいですし、障がい者に対する気持ちや意識を変えるきっかけになってほしいとも思っています」。
卸先の交渉は社員が行うそうですが、取引先が増えるほどに、障がい者の可能性も広がっていくような感覚を覚えると話してくれました。
障がいと向き合い、輝く未来を描いていく
介護や介助の仕事は大変です。
3K(汚い、キツイ、危険)と言われることもあります。
正直、私は今まで憧れる職業と思ったことはありませんでした。
でも、この人の言葉に、私は自分の考えを恥じました。
冒頭書きましたが、私の祖母は認知症で老健施設に入っていました。
この方が勤務していたB型の施設ではないから、少し違いますが、そのとき感じたんです。
認知症でも、人の心は失っていないんだから、もっと接し方に配慮してほしい、と。
祖母がいた施設では介助・介護する人がいるだけ。
ハードワークなのか、祖母は雑に扱われることが多く、家族としては辛かった。
私が彼女の言葉に涙したのは、常に自分ごととして捉え、障がい者と接していること。この人となら、障がいがあっても、不安のない未来を作っていけそう。そう感じたからでした。
介護の仕事は、給与面や待遇の良し悪しを考えるだけでは務まらないと思う。
その先に、どういう未来を作っていきたいか。その人にどういう未来のキーを渡せるか。そう考えられる人についてほしいと思いました。
彼女がかつて味わった辛い過去は、優しさと強さになって、介護職で活かされていました。